アイルランドの自然と人々



地理・地形
アイルランド島はヨーロッパ大陸の最北西、北緯51.5゜から55.5゜(北樺太とほぼ同緯度)西経5.5゜から10.5゜に位置する。菱形の低平な島で、総面積84,421I(北海道とほぼ同じくらいの大きさ)、最長距離東西275km、南北486km、海岸線全長3,172kmである。
アイルランド島とグレートブリテン島を隔てるアイリッシュ海は最大幅192Km、平均水深は約66m、最深部は約200mで大陸棚は狭く大西洋を境にして急激に深くなっている。
島のほぼ全域は標高600〜900メートルの高原地帯、西部は石灰岩に覆われた平地となっている。

大西洋に面する西部から南部は複雑に海岸線が入り組み、美しい入り江や、200mにも及ぶ断崖絶壁が見られる。全島のいたるところに沼沢地、泥炭地が見られるが、特にシャノン川流域に広く分布し、河川や湖沼も多く点在する。アルスター地方との境目に沿って西海岸から東海岸まで広く帯状に小丘陵(ドラムリン
*1)がつらなる。山は全体に低く、1,000mを超すのは南西部のアルモリカン山系に属するカラントゥール山(1,041m)のみである。

アイルランドの川は全体を併せると26,000km、最も長い川であるシャノン川(370km)は中部地方の田園風景をゆるやかに蛇行し、リー湖(Lough Ree)とダーグ湖(Lough Derg)を形成して、リムリックの河口に注ぐ。湖は合計1,450I小さなものを含めるとおよそ800くらいある。アルスター地方のネイ湖(Lough Neagh)はアイルランドで最も大きな湖で(400I)うなぎが多く生息する。
<アイルランド島の成り立ち>
今から6億年から2億年前、アイルランド島はグレートブリテン島(イギリス)とつながっていた。新生代に現在のアイリッシュ海に大きな割れ目が生じ、多量の溶岩が吹き出した。2つの島に分かれ、東北部はこの溶岩に埋めつくされた。一方南部地方は独自に活発な造山活動をくり返し、東西にのびる山脈をつくった。これをアルモリカ造山活動と呼ぶ。中央低地もかなりこの影響を受けた。さらに西海岸は大規模な断層が生じ、海没していった。これがアイルランドの大地の基礎となっている。
現在のアイルランドの地形をつくりあげたのが、氷河である。アイルランドは2度に渡って大きな氷河作用を受けた。大地の鋭い凸部分は氷河によって削られて平らになっていった。特に西部には石灰岩の露出した広大な地域を残し、東部では堆積した粘土や砂による肥沃な土地ができた。河川や湖や谷もまた氷河の産物である。アイルランドは大山脈が少なく、平らな大地が続くが、地中はかなり複雑な地形で大鍾乳洞や柱状節理が形成されている。



*1-ドラムリン:氷河地形で数百メートルから1600メートルに及ぶ丘。丘と丘の間には湖や沼沢が横たわっていることが多く、ドラムリンがアイルランドの面積のほぼ八分の一を占めている。


気候・降雨量
大西洋を流れる暖かいメキシコ湾流と南西からの偏西風の影響で温暖湿潤、暖寒の差が比較的少なく、最も寒い時期は1月から2月で気温4℃から7℃、最も暖かい時期は7月から8月で気温14℃から16℃である。(30℃を超える暑い日、マイナス10℃を超える寒い日はほとんどない。)5月と6月は比較的晴れの多い季節で日照時間は1日平均5時間から7時間である。

降雨日数が年間200日を超えるため、一年を通じて、濃い緑が保たれている。雪はあまり降らず、西部では霜も少なく、牧草が一年中生育する地域もかなりある。低地の地方は年間平均降雨量は800〜1200mm、山地や偏西風をまともに受ける大西洋沿岸ではこれよりはるかに多い。南西地方が最も雨が多く(年間平均250日)、東側の地方は比較的雨は少ない(年間平均175日)。

天候は刻々と変わり、晴れていても急に雲に覆われ突然雨が降ったと思うと、雲の切れ間から斜光がさし込む。通り雨の後に虹がかかることも珍しくない。
<アイルランドの年平均気温>
1〜2月 
 昼:8.3℃/夜:1.7℃
3〜4月 
 昼:10.6℃/夜:2.2℃
5〜6月 
 昼:16.1℃/夜:7.2℃
7〜8月 
 昼:17.2℃/夜:10.6℃
9〜10月 
 昼:15℃/夜:6.7℃
11〜12月 
 昼:9.4℃/夜:2.8℃



日の出と日の入り時間
  日の出 日の入り   日の出 日の入り
1月1日 8時40分 16時17分 7月1日* 5時01分 21時56分
2月1日 8時10分 17時08分 8月1日* 5時41分 21時20分
3月1日 7時13分 18時03分 9月1日* 6時34分 21時14分
4月1日* 6時59分 20時00分 10月1日* 7時26分 19時02分
5月1日* 5時51分 20時54分 11月1日 7時24分 16時53分
6月1日* 5時04分 21時43分 12月1日 8時17分 16時11分
*サマータイム


環 境
アイルランド経済は伝統的に農業が基本で、工業化への大きな変化がなく、またヨーロッパの中心から離れた島国であること、さらに人口密度が低いため、手付かずの自然が多く残され、自然破壊は最少に留められている。高い年間雨量と大西洋から一年中吹く偏西風によってほとんど大気汚染がない。アイルランド政府はクリーンな近代産業を奨励し環境の保護によって国民の文化的生活環境基準を守ることを最優先している。また観光客の誘致や、農業、畜産、 養殖、水耕栽培など天然資源が基本となる産業を守り、外国に対し高品質で安全な製品の提供において環境の保護は特に重要であると考えている。  



アイルランドの野生生物
アイルランドの動物相はイギリスと似ているがすべての動物群において種の数が少ない。
哺乳類は赤鹿、キツネ、アナグマ、うさぎ、テン、かわうそ、赤リス、ハリネズミ、コウモリなどを含むおよそ31種類でヨーロッパの温暖な地域に見られる動物相に類似している。西海岸の沖合いの島ではアザラシ、イルカや時おりクジラも見られる。は虫類と両生類はコモチカナヘビ、イモリ、ヒキガエル、アカガエルなどが棲息するだけである。唯一のは虫類は普通のトカゲである。
川と湖にはサケ、マス、イワナ、ウナギ、ニジマス、シロマス、カワカマス他多種多様でフィッシングは特に人気があり、大会も行なわれる。西海岸の崖にはうみがらす、数種類のカモメ、鵜が生息し、ケリー県の半島やウェストコークのクレア島(Clear Island)ではニシツノメドリ、かつおどり、みずなぎどり、うみつばめなどが群生する。およそ380種類の野鳥が記録され、そのうち135種類がアイルランドで繁殖する。また春や秋には渡り鳥も多く、冬にはグリーンランドやアイスランドから渡って来る鳥が東側の海岸に群生し、特にグリーンランドのホワイトフロンテッドグースの75%がおもにウエックスフォードやアントリムの海岸で冬を過ごす。内陸の湖には、白鳥、がちょう、渉禽類、カモ、アジサシとカモメが生息する。タイロン県のスペリン山(Sperrin Mountains)やモーン山(Mourne Mountains)数種類のはやぶさやハゲタカ、ハイタカが見られる。ウィックロー山ではくろうた鳥、赤ライチョウも見られる。

「芸術、文化遺産、 ゲールタクトと島」省庁(Duchas/the Heritage Service of the Department of Arts, Heritage, Gaeltacht and the Islands)が生物の自然保護を管轄し、多くの野生生物と鳥が野生生物保護法によって国の保護下にある。また野鳥の生息区域である111カ所がEUが指定する保護区となっている。

アイルランドには5つの国立公園がある。
・キラーニー国立公園(ケリー)
・グレンベック国立公園(ドネゴール)
・コネマラ国立公園(ゴルウェイ)
・バレン国立公園(クレアとゴルウェイ)
・ウィックロー国立公園(ウィックロー)
近年、大西洋の泥炭地を含むメイヨー県のおよそ10,000ヘクタールが新しい国立公園となる予定。
<アイルランドのヒツジとウシ>
アイルランドの少ない太陽光と低い気温はヒツジ、ウシなど家畜にとっては厳しい条件である。アイルランドに生息するヒツジやウシはこの風土に耐える特別の品種となっている。ヒツジは顔が黒くやや小型で、これはブラックフェイス種といってスコットランドの山岳地帯が原産の品種。寒さに強く、粗飼いに耐え体質は強健なのが特徴で、通常ヒツジが飼えないような地域でも大丈夫だそうだ。ウシは白地に褐色のだんだら模様があるのがスコットランド原産のエアシャー種、模様のない少し小型で褐色のジャージー種が多く、両方とも粗飼いに耐え、寒さに強い。いずれも主に乳用。


▲ 黒い顔のヒツジ


アイルランドの植物
アイルランドは北海道よりも北に位置するが、日本なら東北地方とほぼ近い植物相で、暖流の影響で種類は変化に富む。高層湿原にしか育たない特殊な植物も多く、固有種となったものもある。強い太陽の光りが望めず、さらに寒冷なアイルランドの大地は原色の大輪の花はほとんど見られない。そのかわり1本1本は小さく花は可憐で地味だけれど、大群集となり斜面を美しいカーペットのように埋め尽くす。
3月から5月には林の中の木の根元でサクラソウやすみれ、ジギタリスの花がいっせいに花を咲かせる。低い丘や荒野では3月から6月ごろまで黄色のハリエニシダが咲き、特にウィックロー県ではハリエニシダのバニラの香りでいっぱいになる。初夏に入ると林の中の花は消えるが、光りをいっぱいに受ける草原に日本で高山植物と呼ばれているものと同じ仲間が美しい大群落をつくる。9月〜10月にはケリー県やウィックロー県の山の中腹にヒースの花が大地を紫色のじゅうたんに変える。ケリー県とウエストコークの海岸地方はメキシコ湾流の影響で湿気が多く他の地方より気温が高い為、やしの木や地中海イチゴなどの亜熱帯性気候の植物が見られる。また、森の中はツツジの成長に適し、国立公園などの森林は地衣類や苔類、シダ類が群生する。また生け垣にフクシアが多く見られる。

むき出しの石灰岩が地表を覆うバレン高原では極北地方や高山植物、地中海地方などさまざまな種類の花が石灰岩の間から咲く。特に春から夏にかけて石灰岩の割れ目に青リンドウやランなどが咲いている。また泥炭地には地衣類や沼苔種やヒースやスゲなど多種多様である。いくつかの野生の植物は国の保護下にある。
かつてアイルランド島の大部分は原生林(巨大なトチノキ、ナラ、カシ、カエデ類など)で覆われていた。これらの原生林は牧草地や町をつくるため伐採され18世紀始めまでにほとんど消滅してしまったが、ウィックロー山やキラーニー国立公園、グレンベック国立公園には手付かずで残され、やまももやイチゴの木なども見ることができる。18世紀には各地で大規模な植林が行われ、外来の植物(ブナノキ、クリ、スコットランド松、チリー杉、レバノン杉などが原産種を補っている。現在、国土のおよそ9%が森林。


ピートランド(泥炭層)
アイルランド島の土地のおよそ6分の1を占める泥炭層(ピートボグ/Peat bog)もアイルランドの風景の特徴のひとつ。(ヨーロッパではフィンランドに次いで2番目の広さである。)
泥炭にはブランケットピートボグ(Blanket Peat bog)とレイズドピートボグ(Raised Peat bog)の2種類がある。ブランケットピートボグ(深さ2m〜6m)は雨量の多い湿った地方、特に西側の海に沿って山岳地に多く(リーシュ県とオファリー県に広がるスリーブブルーム山(Slieve Bloom Mountains)コネマラ地方、メイヨー県、ドネゴール県など)ブランケットピートボグにはヒース、いぐさ、みずごけなどが群生する。レイズドピートボグ(深さ12m)は低地で、雨量が少ないアイルランド島の中央部分に広い範囲で点在する(オファリー県のモンガン泥炭地など)。レイズドピートボグには泥炭綿、もうせんごけ、クランベリーや地衣類が群生する。
泥炭層は防腐剤としての役割もあり、青銅器時代の金の装飾品のひとかたまりや泥炭層の下から石器時代の地面がそのまま発掘されたということもある。ピートは四角く切り出され、細長い角材の形にして積み重ねて乾かされる。特に練炭(ターフ)として暖炉など燃料用に利用されている。
ピートは湿った状態で不完全に腐敗した太古の植物が蓄積したもので、およそ12,000年前の氷河時代にアイルランドの中央部を覆っていた巨大な氷河湖がやがて水位が下がって湿原状となり、植物が茂り、枯れて腐りそれが数千年の歳月によって泥炭層となった。





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