妖精たちはさまざまな姿や性質で、世界各国の神話や物語の中に登場しますが、アイルランドでは特に日常生活にあたかも妖精が含まれているかのように身近に存在しています。
妖精は“リトルピープル”“リトルフォーク”(小さな人達)“グットネイバーズ”(良いお隣さん)“ジェントリー”(紳士たち)などと親しみを込めて呼ばれています。アイルランドの田園の風景や緑の丘、深い森を目の前にすると、この国にはたしかに妖精は存在するとだれもが不思議に納得してしまうのです。


アイルランド人と妖精




アイルランド人と妖精
陽気で親切、気前が良く、音楽とダンスとおしゃべりが大好きなアイルランドの妖精は、まるでアイルランド人の気質そのものです。そしておだやかな自然環境や風土、一日のうちにめまぐるしく変わる天気も妖精の性格となって表われています。
妖精はアイルランドの森林や各地に残る数百もの砦や丘陵に住んでいると言われています。
自然の中に存在すると考える精霊や神秘的なものを人々が尊重し、大切に守り続けようとする信仰心と豊かな想像力の中で生まれた妖精たち。アイルランドの大地や空気の中にはこのような精霊たちが息づき、気ままで親切な妖精たちがいつも人々の近くに存在しているのです。

妖精の声は山のこだまにまぎれて聞こえ、さんざしの木のやさしい香りにつつまれて彼らはささやきます。妖精の姿は森林の紫や金色の霧の中でいつも見え隠れしています。突然つむじ風が吹き、秋の木の葉が風に舞うのは小妖精が素早く駆け抜け、大麦の穂が揺れたり曲がったりするのは妖精の王が野原の向こうにある宮殿にむかって大急ぎで飛んでいるからだといわれています。そのとき人々は「妖精たちにも神のお恵みを」と祈るのです。

妖精はいたずら好きで怒りっぽく気まぐれです。でも陽気で根はお人好し。人間に対し善には善、悪には悪をもって報いるのです。もしうまくつきあっていきたいという気持ちが妖精に伝われば彼らは幸運をもたらしてくれるでしょう。


妖精の起源
太古の昔から人々は天使と人間とのあいだに存在するもの、目には見えないけれども人間の運命にも影響を与える不可思議な力を与えられた超自然的なものとして妖精の存在を信じてきました。
妖精の起源を神話や伝説や物語でたどると、妖精の誕生には長い時間をかけて人間が培ってきた文化や風習、そしてその土地の自然や風土が深く関係していることがわかってきます。

アイルランドの妖精の誕生には主に次の3つの要素が考えられています。
<1>妖精は自然の霊であるという説。自然界にあるすべてのものに精霊が宿ると考える、超自然的な古代宗教の自然観。
太古の人々は自分たちを取り巻く自然環境や現象を擬人化し太陽、風、木々、水に精霊の存在を感じてそうした超自然の生き物たちに敬意を払っていたところから、妖精信仰は生まれたといわれています。

<2>異教の神々、女神たち、種族の先祖、それにそれらを崇拝したものすべてが、妖精となった。
古代の巨人神族トゥアハ・デ・ダナーンがマイリージャ族に戦いで敗れ、海のかなたに逃れて「常若の国」(ティル・ナ・ノーグ)や地下の国を創り隠れ住みました。やがて崇拝もされず供養も捧げられなくなり、しだいに小さくなって妖精となったという伝説があります。

<3>妖精は天国から堕ちた天使。
神によって人間が創られるずっと以前のこと、かつて妖精は天国では天使であったが高慢さゆえに神の命令により天国から追放されたと考えられています。あるものは地上や海に落ち、大理石と宝石で美しい妖精宮殿を建てました。また地獄に落ちたものもあり、そこで魔王に捕えられ、邪悪な心を植え付けられました。

アイルランドでは今日でも妖精が、まるでそこの一種族であるかのように実に生き生きと存在しているのは聖パトリックの恩恵も理由のひとつです。 聖パトリックによってアイルランドにキリスト教がもたらされた後も異教の神々や妖精たちは、否定され迫害されることなくそのまま残ることを許され、キリスト教と穏やかに共存することができました。アイルランドの人々はキリスト教への信仰を抱きながら妖精や精霊や土着の神々の存在も大切にしてきたのです。


妖精と植物
妖精と草木には深い関係があります。妖精の好きな花は、白い花といいにおいの花。サンザシはまさに妖精好みで、よくサンザシのそばで踊ると言われています。リンゴにスイカズラ、ハシバミも妖精が好きな木。これらの植物のほかにイバラやハリエニシダ、特にヒースが妖精のお気に入りです。

従って妖精たちが踊った後の草の上にできる「妖精の輪」(フェアリーリング)や妖精の通り道には、家を建てたり土を掘り起こしたりするべきではありません。むやみに植物を傷つけたり、ゴミを捨てたり、積まれた石をこわすなどの行為をすれば妖精の怒りにふれることになります。また妖精たちが守っている古いさんざしの木やヒースも無断で切るべきではありません。妖精たちはまず大きな音を鳴らしたりつねったり身体をしびれさせたりして警告を与えます。それでも聞かない場合は、災厄が及ぶと考えられています。


妖精の住むところ
妖精は遺跡や古墳がある場所、石で造られた塚や小高い丘の中腹によく現われます。静かな山おくや深い森は古代にドルイドが祈りのためこもった神聖な場所で、また古代の部族の支配者によって作られた砦やラースと呼ばれる円形の土砦も妖精に関係の深い場所です。

妖精の国は主に丘の内側から広がっています。この丘は「妖精の丘」といって、外側から見れば、緑のマウンド(土塚)か小さな丘にすぎませんが、「フェアリーヒル」のほか、ノックと特別な呼び方をされるように注意を払われている場所です。シー(Sidhe)はアイルランドゲール語で“丘の人々”を表わします。もともと妖精が住む丘陵を表わしましたが現在は妖精そのものを表わすことばになりバンシーやリャナンシー、ディーナシーなどの名前がついたのです。妖精の国の王はフィンヴァラ。今日もノックマの丘の宮殿に住むと言われています。

妖精の国は土の下だけでなく、湖や川、海の底、また山頂にも存在するのです。妖精の国には緑の草原が広がり、泉が湧き、リンゴやプラムなどの果実も実っています。川にはワインやミルク、蜂蜜が流れます。

湖の底や、丘の中腹に真珠や金でできた豪華な妖精宮殿があり、魔法の力によって出された数々の贅沢な品が並べられています。そして宮殿にたくさんの宝ものを隠しています。それは沈没した船に積まれていた宝や人々が侵略に備えて隠したり埋めたりした宝で、その場所が秘密のままほろびてしまった一族のもの。そのため妖精の宮殿は壁は銀で歩道は金、宴会場はちりばめられているダイヤモンドのきらめきで照らされています。

また遠い海の彼方にある「常若の国」ティル・ナ・ノーグ(Tir Nan Og)も妖精の国です。


妖精が苦手なもの
妖精の中には悪意に満ちたものやひどいいたずらで人間を困らせるものも数多く、そのような妖精を避ける方法を知っておくことも大切です。

火は妖精の魔法に対して最も予防効果のあるものです。ミルク缶の下に火のついた石炭を置いたり、飼っている牛や馬の健康がすぐれないときは、その上で小さなわらの束に火をつけ明るくします。また妖精のきらいなものは鉄。とくに美しい人間の子供としわだらけの妖精の子供を取り替えるチェンジリング(取り替え子)から子供たちを守るために、鉄の針やはさみをゆりかごの近くに置いておいたり、火のそばにゆりかごを置くと効果があります。

夜、妖精が出るといわれる場所を通るときには、鉄の十字架や聖水、教会の鐘の音や塩水、また戸口に馬蹄をうち付けておけば妖精の復讐を防げると言われています。


妖精に出会う
妖精が見えやすい日は、妖精界の扉が開いて人間界と交流する日、5月1日のメイ・デイ、6月24日の聖ヨハネの祝日(夏至前夜)、10月31日ハロウィーンです。ケルト人は11月1日のサワーン祭から5月1日のベルテーン祭までの半年を冬、あとの半年を夏としていました。妖精たちはこれら日に集うところから、人間界に姿を表わすことが多いのです。そして夏至前夜、妖精たちは心底陽気になり、美しい人間を自分の花嫁にしようとこっそり連れ去ったりします。逆に11月の宵祭りは冬の始まりの日で、妖精たちはすっかりふさぎこんでしまいます。妖精が見えやすい時間は日暮れどき、真夜中、日の昇る直前、太陽が頭の上にきて影が消えるほんの一瞬です。





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