※本ページは、当事務所執筆の専門冊子『想いをつなぐ相続と遺言』の17〜21ページの内容を統合してWeb公開したものです。
本連載の構成
- ・第1回:ご家族の逝去後の諸手続き一覧チェックリスト ▶
- ・第2回:遺産相続手続きの進め方 ▶
- ・第3回:法定相続人と相続の順位/法定相続分と相続権 ▶
- ・第4回:遺言書がある場合の相続手続き ▶
- ・第5回:遺言書がない場合の相続手続き1(遺産分割協議・相続関係説明図・法定相続情報)▶
- ▶ 第6回:遺言書がない場合の相続手続き2(相続税・相続放棄・不動産の相続・農地の相続)(本ページ)
- ・第7回:遺言書の書き方 (準備中)
- ・第8回:遺言書が効果的な場合 (準備中)
- ・第9回:成年後見制度 (準備中)
1. 相続税
相続税は、遺産総額が基礎控除額を超えた場合に、その超えた部分に課税されます。この基準以下であれば、支払う必要も申告する義務もありません。相続開始(被相続人が死亡したことを知った日)の翌日から「10か月以内」に申告と納税を済ませる必要がありますので、期限内に遺産分割協議までの手続きを済ませる必要があります。
相続税がかかるかどうか
課税遺産総額 = 課税財産 − 基礎控除額
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
計算の結果、課税遺産総額が0円以下なら、相続税はかからず申告も不要です。
- 法定相続人 1人:3,600万円
- 法定相続人 2人:4,200万円
- 法定相続人 3人:4,800万円
- 法定相続人 4人:5,400万円
| 相続税の対象となる主な財産 | 現金・預貯金、土地・建物、株式・投資信託、自動車・貴金属など、生命保険金・死亡退職金、一定の生前贈与財産※ ※相続時精算課税制度などを利用した贈与財産 |
|---|---|
| 相続税の対象とならない主な財産 | お墓・仏壇・仏具などの祭祀財産、国や地方公共団体などへの寄附金、被相続人の借金やローン、葬儀費用 |
◆ 主な軽減措置・特例制度
一定の条件を満たすと、相続税を大幅に軽減できる制度があります。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が相続した財産は、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。
- 小規模宅地等の特例:被相続人が住んでいた自宅や事業用の土地は、一定の条件を満たすと、相続税評価額を最大80%減額できます。
※これらの特例により相続税が0円になっても、申告期限までに申告書の提出が必要です。 - 生命保険金:500万円 × 法定相続人の数まで非課税です。
- 死亡退職金:生命保険金と同様に、500万円 × 法定相続人の数まで非課税です。
- このほかにも相続税を軽減できる特例があります。詳しくは税理士へご相談ください。
生命保険金の取扱い(遺産分割と相続税)
| 項目 | 遺産分割では | 相続税では |
|---|---|---|
| 基本的な取扱い | 生命保険金は受取人固有の財産です。原則として遺産分割の対象になりません。 | 生命保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。 |
| 協議の必要性 | 不要(他の相続人の同意はいらない) | 必要(他の遺産と合算して税金計算) |
| 非課税枠 | なし(全額受取人のもの) | 500万円 × 法定相続人の数まで非課税 |
2. 相続放棄
相続が始まると、被相続人が遺した財産は原則として相続人が引き継ぐことになります。この「財産」には、預貯金や不動産、株式といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金、保証人としての義務など、マイナスの財産(負債)も含まれます。相続した財産の扱いについては、相続人に次の3つの方法が認められています。
| 単純承認 (すべてを引き継ぐ) |
相続放棄 (何も引き継がない) |
限定承認 (プラスの範囲で引き継ぐ) |
|
|---|---|---|---|
| 財産 | プラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、すべて引き継ぎます。 | プラスの財産も、借金などのマイナスの財産も、一切引き継ぎません。 | 相続したプラスの財産の範囲内で、借金などのマイナスの財産を返済します。 |
| 借金 | 借金がプラスの財産を超えていても、すべて返済する義務があります。 | 借金が多く、返済できない場合に適しています。 | 借金の金額がはっきりしない場合などに利用されます。 |
| 家庭裁判所への申述 | 不要(3か月以内に相続放棄・限定承認をしなければ単純承認となります。) | 必要(3か月以内に家庭裁判所へ申述) | 必要(相続人全員で3か月以内に家庭裁判所へ申述) ※限定承認は、相続人全員が同意し、共同で家庭裁判所へ申述する必要があります。 |
| 期限 | 相続の開始を知った日から3か月 | 相続の開始を知った日から3か月 | 相続の開始を知った日から3か月 |
※相続放棄は、相続人としての立場を辞退し、借金の返済義務を負わないようにする手続きです。ただし、一度放棄すると原則として撤回はできません。相続放棄をしても、遺産や借金が自動的になくなるわけではなく、相続人全員が放棄した場合など、遺産を管理・清算する人が必要になることがあります。その場合は、家庭裁判所で『相続財産清算人』の選任を申し立てます。相続放棄には慎重な判断と、その後の対応も重要です。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされます。そのため、相続権は次の順位の親族へ移ります。思いがけず借金を引き継ぐことになる人が出てくる可能性もあるため、放棄をする際は、次の相続人にあたる親族へ事前に連絡するなどの配慮が大切です。
また、相続放棄を考えている間に、故人の財産を処分したり使用したりすると、「相続を受け入れた」と判断され、放棄が認められなくなることがあります。葬儀費用の支払いなど必要最小限の行為にとどめ、不安な場合は弁護士や司法書士など専門家へ相談しましょう。
相続分の放棄
「相続分の放棄」は、「相続放棄」とは別の制度です。相続人としての立場は残したまま、自分の法定相続分を受け取らないことを他の相続人と合意する方法です。
- 遺産分割協議で合意すれば成立し、家庭裁判所での手続きは不要です。
- 相続人としての立場はそのまま残るため、借金などの負債まで放棄できるわけではありません。相続分 を受け取らなくても、借金については責任を負う場合があります。借金がある場合は、「相続分の放棄」 でよいのか、「相続放棄」が必要なのかを事前に確認しましょう。
3. 不動産の相続
不動産は高額な財産であり、預貯金のように簡単に分けることができません。そのため相続人同士で話し合い、不動産の種類や評価、相続人の意向に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。不動産相続には共有分割(きょうゆうぶんかつ)、代償分割(だいしょうぶんかつ)、換価分割(かんかぶんかつ)の3つの方法があり、それぞれに利点と課題があります。
| 分け方 | 利 点 | 課 題 |
|---|---|---|
|
<共有分割> 相続人全員で共有して所有する方法 |
手続きを早く終えられます。 | 売却や賃貸には共有者全員の同意が必要です。共有者が亡くなるとその相続人も共有者となり、権利関係が複雑になることがあります。 |
|
<代償分割> 一人の相続人が不動産を取得し、他の相続人へ現金などを渡して公平に分ける方法 |
不動産を一人を取得でき、他の相続人も現金などで公平に分けられます。 | 不動産を取得する人は、代償金を準備する必要があります。また、評価額で意見が分かれることもあります。 |
|
<換価分割> 不動産を売却し、その代金を分ける方法 |
現金で公平に分けやすく、管理の負担もなくなります。 | 売却には時間や費用がかかり、希望どおりの価格で売れないこともあります。 |
- 自宅を家族が引き継ぐ ➔ 代償分割
- 土地を売却して分ける ➔ 換価分割
- とりあえず共有 ➔ 共有分割(※将来トラブルになりやすいため慎重に)
◆ 相続した不動産の活用と注意点
相続した不動産は、自分で住むほか、貸したり売却したりして活用できます。一方、遠方や利用予定のない土地は、管理費用や固定資産税がかかるだけでなく、防犯や近隣トラブルの原因になることもあります。また、狭い土地や道路に接していない土地、傾斜地などは売却が難しい場合があります。このような土地では相続放棄を考えることもありますが、相続放棄をすると預貯金など他の財産も相続できなくなるため、慎重に判断しましょう。
令和6年(2024年)4月より、不動産を相続した際の相続登記が義務化されました。相続人は、不動産を取得したことを知った日(遺産分割をした場合は成立した日)から3年以内に、管轄の法務局で相続登記を申請する必要があります。なお、令和6年4月1日より前に相続が開始している場合も義務化の対象です。
相続や遺贈で引き継いだ不要な土地は、「相続土地国庫帰属制度(そうぞくとちこっこきぞくせいど)」を利用して、国へ引き渡せる場合があります。相続放棄とは異なり、預貯金などの他の財産はそのまま残し、不要な土地だけを手放せる点が大きな特徴です。ただし、利用するには一定の要件を満たす必要があり、審査や費用もかかります。
4. 農地の相続
相続した土地が農地の場合は、家や宅地とは異なり、農地法による特別なルールがあります。農地は、国の食料供給を支える大切な土地であるため、自由に売ったり、貸したり、宅地へ変更したりすることができず、農業委員会への届出や許可などが必要になります。
農地を相続した場合に必要な届出と許可
農地を相続した場合は、相続登記とは別に農業委員会への届出が必要です。相続人は、農地を取得したことを知った日から10か月以内に届出を行います。また、相続した農地を第三者へ貸す場合は、原則として農業委員会の許可が必要です。借り手にも、農業を行う意思や能力があること、農地を適切に利用することなど、一定の条件が求められます。
- 実際に農業を行う意思と能力があること
- 耕作に必要な技術や設備があること
- 農地を適切に利用すること(遊休農地にしないこと)
- 法人の場合は、農地所有適格法人であること
<農地の相続税の納税猶予制度> 相続税の納税猶予(のうぜいゆうよ)を受けている農地については、原則として、納税猶予を継続するために、相続人が自ら農業を行うか、一定の条件を満たしたうえで第三者に農地を貸し出す必要があります。
<条件>
・農地中間管理機構(農地バンク)などを通じて貸し出すこと
・貸し手・借り手ともに「農業従事者」であること
・農地としての利用が継続される契約内容であること
◆ 農業を継がない場合や、農地の管理が難しい場合
農業を続けたい第三者へ農地のまま売却する方法です。買い手は農業を行う人に限られ、意思や能力など一定の条件を満たしている必要があります。売買の合意ができたら、許可申請を農業委員会に提出します。一般の土地に比べて買い手探しは難しい場合があります。
農地を宅地や駐車場など、農地以外の用途に利用したい場合は、「農地転用」の手続きが必要です。市街化区域では農業委員会への届出、市街化調整区域では都道府県知事などの許可が必要となり、立地や周辺環境などによっては認められないこともあります。転用が認められると売却しやすくなりますが、多くの書類や関係機関との調整が必要になるため、早めの準備が大切です。
農地を利用する予定がなく、管理も難しい場合は、地元の農業委員会に相談する他、相続放棄や相続土地国庫帰属制度を検討する方法もあります。
農地は長期間放置すると荒れてしまい、近隣に迷惑をかけたり、管理費用が増えたりすることがあります。相続人が農業を継がない場合や、遠方に住んでいて管理が難しい場合は、早めに対応を検討しましょう。農地は、通常の不動産より手続きが複雑で、専門的な知識が必要になることがあります。農地の管理や処分に困ったときは、農業委員会や行政書士、司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。
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